交通事故topics

2013年2月 5日 火曜日

むち打ち症と治療期間−判例−

・むち打ち症の治療期間に関する興味深い判例があります。



(休業損害439万0144円,

後遺障害逸失利益123万9694円,

慰謝料300万円その他が認められたが,

50%の素因減額がされた裁判例)



・それは東京地方裁判所平成10年1月20日判決(平成5年(ワ)第19170号事件)です。


・この判例では,交通事故の衝撃の大きさ,神経ブロック療法の持続性や心因性の素因の存在を認定して,相当因果関係のある治療期間と素因減額について述べているところが非常に興味深いといえます。


・この判決では以下のように述べています。


「...反訴原告は、局所ブロック治療後は、症状が軽減するものの、二、三日すると増悪し、一進一退を繰り返していた。
 同病院における反訴原告のレントゲン写真には異常はなく、MRIでも脊髄、頸椎の変化は認められず、自覚症状、心因性は強いものの、他覚的所見は乏しいとされている。...」

と事実認定し,

また,

「...2 右認定の事実及び鑑定の結果をもとにして検討するに、反訴原告の症状等については、次のように考えられる。すなわち、本件事故により、被害車両は、反訴原告の乗車していた車体左側部に損傷を受けたものであるが、その修理費は二四万三二〇〇円に過ぎず、本件事故により反訴原告の受けた衝撃は、もともとそれほど大きくなかったものと推認される。右事情に加えて、
   (一) 一般に、他覚的所見の乏しい頸椎捻挫、外傷性頸部症候群の場合、治療期間としては、長くても三か月程度の治療期間が妥当とされているところ(鑑定の結果。なお、反訴原告の大脇病院における当初の加療見込みも、三か月程度とされている。)、反訴原告に対しては治療開始当初から神経ブロック療法が実施されながら持続性がなく、****病院において症状固定とされた時期(平成八年七月一〇日)の前後においても、格別以前と異なる治療がなされたことを認めるに足りる証拠はないから、直ちに右記載を措信することはできず、さらに、本件事故以前から存在していた反訴原告の家庭内及び職場の状況に、本件事故を契機として生じた反訴原告の心因性の存在も指摘されていること等の事情を総合すれば、本件事故と相当因果関係のある治療期間としては、本件事故後、概ね一年間を経過した平成元年七月末日までとするのが相当である。
   (二) 次に、本件事故と相当因果関係の認められる反訴原告の就労不能期間としては、右(一)の点に加えて、一般に他覚的所見の乏しい頸椎捻挫、外傷性頸部症候群の場合、三か月を経過すれば可能であるとみられるところ(鑑定の結果)、反訴原告は、スナックを経営し、就労時間が不規則であり、立っている時間が長いことを考慮すると、これを一年間と認めるのが相当である。
   (三) 反訴原告の後遺障害等級としては、星状神経ブロックという患者である反訴原告本人にも負担のかかる治療を長期にわたって受けながら、なお、長期の頸部痛等があり、局部に神経症状を残すものとして、一四級一〇号と認めるのが相当である(鑑定の結果)。
   (四) 反訴原告の治療が長期化したのは、反訴原告の心理的素因(心因性)が関与しており、本件事故に対する寄与度は、前記認定の事実及び鑑定の結果を総合すれば、五〇パーセントとするのが相当である。」

としています。


・この判決では結論として14級の後遺障害等級を認め,また,心因性素因を斟酌して50%の減額をしています。このような形でこの判決には,むち打ち症の事案の難しさがよくあらわれているといえるでしょう。


・この判決では休業損害について,売上減少と事故との因果関係を取り上げ,また後遺障害逸失利益や慰謝料について以下のように述べています。


3 休業損害 四三九万〇一四四円
 甲三、四の1、2、反訴原告本人によれば、反訴原告は、本件事故前年の昭和六二年六月Aを開店し、本件事故当時、長女のほか、従業員数名を雇用し、接客の中心として稼働していたことが認められ、青色申告をしていることから、その記載内容に一応の信用力があるものと認められるが、前記のとおり、Aには他に従業員もおり、また、反訴原告本人によれば、本件事故後、新たにチーフとママを雇い入れたというのであるから、Aの売上減少が直ちに本件事故によるものとは言い難い。
 そして、反訴原告の基礎収入については、本件事故前六か月間(昭和六三年一月から同年六月まで)の事業主報酬を基礎とし(合計四五五万二三四六円。一日当たり二万四九四四円)、前記一2のところから、反訴原告の入院日数(四五日間)及び通院実日数(一三一日。甲一の1ないし8、乙一)について、合計一七六日間の反訴原告の休業損害として算定すると、次のとおり、四三九万〇一四四円となる。
 24,944円×176日=4,390,144円



4 後遺障害逸失利益 一二三万九六九四円
 (反訴原告の休業損害の主張中には、実質的に後遺障害逸失利益を包含するものと認める。)
 前記一2のところから、反訴原告の後遺障害は、他覚的所見のない外傷性頸部症候群の神経症状を内容とする後遺障害であるから、前記金額を基礎とし、労働能力喪失率を五パーセント、労働能力喪失期間を三年として、ライプニッツ方式により中間利息を控除して、反訴原告の逸失利益の症状固定時の現価を算定すると、次のとおり、一二三万九六九四円となる。
 4,552,346円×2×0.05×2.7232=1,239,694円



5 慰謝料 三〇〇万〇〇〇〇円
 反訴原告の傷害の部位程度、入通院期間、後遺障害の内容、程度その他、本件に顕れた一切の事情を総合斟酌すると、反訴原告の傷害慰謝料としては、二〇〇万円、後遺障害慰謝料としては一〇〇万円の合計三〇〇万円と認めるのが相当である。




・その上で,心因性の素因が関与して治療が長期化したため,治療費ほか損害額全額に対して50%の素因減額をしています。


三 素因減額
 前記一2の点から、反訴原告の治療が長期化したのは、反訴原告の心因性が関与していることは否定できず、反訴原告に生じた損害額をすべて反訴被告に負担させることは相当でないから、民法七二二条二項を類推適用し、反訴原告の損害額から五〇パーセントを減額すると、残額は五五五万五八〇六円となる。



・結局,治療期間が長くても,素因減額をされると,賠償金額は減らされることになるのです。




投稿者 アスター法律事務所