佐々木宏明の法律ニュース

2013年1月15日 火曜日

貸金債権の譲渡と過払金返還債務の承継について

・過払金返還債務の承継について,重要な最高裁判所判例があります。


 それは,過払金返還債務の承継に関する最高裁判所平成24年6月29日第二小法廷判決です。




・事案の概要


 債務者Xがある貸金業者甲と継続的な金銭消費貸借取引をしていたところ,この貸金業者甲は,貸金業者乙の完全子会社であり,貸金業者甲は甲の有する債務者Xに対する貸金債権を貸金業者乙に譲渡しました。この場合,貸金業者甲が負っている過払金返還債務を貸金業者乙が承継するかどうか問題になりました。


・ポイント
 この事案における貸金業者甲と貸金業者乙の間の債権譲渡基本契約は,貸金業者乙の国内の消費者金融子会社の再編を目的として行われ,貸金業者甲の貸金債権を貸金業者乙が取得して,貸金業者甲の貸金業を廃止することが具体的な目的とされました。


 この債権譲渡基本契約には,貸金業者甲が各債務者に対して負っている過払金返還債務を貸金業者乙が併存的に引き受ける旨の特約があったのが重要です。


 普通ならば,このような特約があれば,貸金業者甲のもとで発生していた過払金返還債務を貸金業者乙が承継することになりそうです。しかし,当該判例の事案では,以下の様な重要な事情があったため,過払金返還債務は承継されないと判断されたのです。


 重要な事情の1つ目は,この債権譲渡基本契約には,契約上の地位の移転に関する規定が存在しなかったこと,また,過払金返還債務が当然に承継されると定めた規定が存在しなかったことです。
 この点が重要なのは,契約上の地位の移転が認められれば,当事者の債権債務は移転するのが当然だからです。このような契約上の地位の移転に関する規定が存在すれば,過払金返還債務も承継されるという結論になるはずでしたが,このような規定がなかったうえ,過払金返還債務の当然承継の規定もなかったのです。


 重要な事情の2つ目は,貸金業者甲と乙との間の併存的債務引受の特約が有効であるうちに,債務者Xが受益の意思表示をしなかったし,受益の意思表示をしたとみることができるような行為をしていなかったことです。
 この点が重要なのは,当該事案における債務引受は,第三者のためにする契約(民法537条1項,2項)によりなされたとみられるから,債務者の受益の意思表示が必要であり,これがなければ,債務の引受は生じないことになるのに,債務者Xがこれをしなかったし,これを認めるに足る行為もなかったことです。


 当該最高裁判所平成24年6月29日第二小法廷判決では,このような,重要な2つの事情があったため,貸金債権は譲渡されても,過払金返還債務は承継されないという結論が導かれたのだといえます。


投稿者 アスター法律事務所